ナンパシリーズ第三弾。
中森明菜が好きでした。
その頃、私は朝7時から15時までという勤務時間のアルバイトをしておりました。
ぶっちゃけ言うと、国立国会図書館の蔵書をデータ化する作業でした。
薄暗い部屋の中で、1ページずつデジタルカメラが埋め込まれた専用の機械で写真を撮るのです。
24時間体制で、8時間ずつ、3人のバイトが交代で行います。
30人くらいが、ひとつの部屋で黙々と作業に当たりました。
どれだけ速く綺麗に撮れるか、自分との戦いでした。
その機械は一見コピー機にも似てますが、本のページは上向きに置き、上からガラス板を下ろし押さえ、足元のペダルでシャッターを押します。
カメラは上から撮影しています。
シャッターをきったら、素早くガラス板を上げ、ページをめくり、またガラス板を下ろして、ペダルを踏む。それはそれは眠たい作業でした。ですから、帰りのバスはできれば座って寝たいので、空いている席には必ず座りました。
3時に仕事を終え、バスに乗ると、席が空いていたので、オジサンの横に座りました。
バスは30分~40分かけて、横浜駅に向かうバスでした。
寝るつもりまんまんだったのに、隣のオジサンが話かけてきます。
「これから、仕事かい?」
無視するわけにいかないので、今仕事が終わってこれから家に帰る途中だと答えました。オジサン、声が大きいです。
仕事つながりでか、オジサンが自分の身の上話的な話を始めます。
大きな声で。
ずっと東京の大田区で鍛冶屋をやっていたけれど、最近引退したとか。
ああ、だから耳が遠いのかも、と思いました。
ずっと、声が大きいのです。
そのうち、お姉さん、歳は30ぐらいかい?
と聞いてくるのです。私がごまかしていると
「32かい?33かい?」
と年齢あてクイズのようになってきました。
大きな声でです。
私は、しかたなく、言いました。
耳の遠いオジサンに聞こえるように、大きな声で。
「38です」
あ~恥ずかしい。バスはたくさんの人が乗っています。
オジサンとの大きな声での会話は続き、私が降りるバス停が近づいてきました。
私は横浜駅までは行きません。手前で降りるのです。
もうすぐ、オジサンから解放されるとき、
オジサンは言いました。大きな声で。
「横浜駅でいっしょにご飯食べませんか?」
私、横浜まで行かないんですよね。
「家で子供たちが待っているので」
といってお断りしました。実際、家に帰ったらすぐ夕食を作らなければなりませんでした。ふたりの子供たちがお腹すかして待っていますから。
すぐ、降りるバス停に着いたので降りました。
オジサンは、わたしが恥ずかしさのあまり、すぐ降りたと思ったかもしれません。
このブログにも写真を載せたことがありますが、
私は結婚指輪をつけていません。手年齢が若いほうです。
だから、独身だと思われたのかもしれません。
婚期を逃したかわいそうな30代女性だと思ったのかもしれませんね。