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あたし、メルちゃん。M子のおともだち。
あたし、M子。メルちゃんはあたしのお人形よ。
前回までのお話
ミニマリストM子は、捨てることにエクスタシーを感じる40歳の独身女。捨てられるものはなんでも捨ててみたいと思い、親、兄弟までも捨てた。
そのM子がどうしても捨てられなかったもの、それがメルちゃんという赤ちゃん人形だった・・・
メルちゃん お人形セット おせわだいすきメルちゃん (NEW)
- 出版社/メーカー: パイロットインキ(PILOT INK)
- 発売日: 2016/01/28
- メディア: おもちゃ&ホビー
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創作物語・ミニマリストM子の復活
メルちゃん、今日ね、男の子から缶バッチもらったの。
M子うれしそうね。その子のこと好きなの?
好きになっちゃったかも。あの子もあたしのこと好きなのかなあ。
きっとそうよ。好きだからくれたのよ。
メルちゃん、今日ね、メルちゃんよりぽぽちゃんの方がかわいいって言う子たちがいて、クラスでメルちゃん派とぽぽちゃん派にわかれたの。あたしは絶対メルちゃん派だからね。
うれしいわ。M子ずっとあたしといっしょにいてね。
もちろんよ、メルちゃん、大好き。
メルも、M子大好き。
♥♥♥♥♥
メルちゃん、あたし、今日、あの缶バッチすててやったわ。
どうして? M子すごく大事にしてたじゃないの。
いいの、あんなやつ。メルちゃんだけがあたしのお友達よ。
メルも、M子だけがおともだち。ずっといっしょにいてね。
♥♥♥♥♥
A子がとうとう捨てたのよ。A子のメルちゃんを。あたしがまだメルちゃんを大事にしてるっていったら中3でメルちゃん大事にしてるのっておかしいって馬鹿にされたわ。
あんなやつ、もう友達じゃないわ。絶交よ。
そうね、ともだちだって切り捨てればいいのよ。
そうよね、すっきりしたわ。ありがとう、メルちゃん。
♥♥♥♥♥
メルちゃん、あたし、友達を捨てて、親も兄弟も捨てて、もう捨てる物ががなくなったの。どうしたらいい?
M子、あたしを捨てて。
だめよ、メルちゃんを捨てることなんかできないわ。0歳のとき母があたしに与えてからずっと40年間一緒に生きてきたじゃない。
M子、あたしはもうむかしみたいにきれいな体じゃないのよ。ほら、白かった肌はくすんでしまったし、髪の艶もなくなってしまったの。捨てられても当然なの。
いやよ、メルちゃんはあたしの分身なのよ。生まれてこなかった双子の妹なんだから。母がそう言っていたわ・・・
あたし、M子のためなら、この身をささげることができるわ。この身をささげることしか、あたしにできることがないの・・・
そんな・・・お釈迦様のために身をささげたうさぎみたいなこと・・・
それなら、おねがい、メルカリにだして。
わかったわ。写真撮るわね。ーーパシャ
名前は、メルちゃんっと・・・
ついにあたし、M子から捨てられるのかしら。
メルちゃん、40年もののメルちゃんはメルカリでも売れなかったわ。それより、いいこと思いついたの。恋人と旦那と子供を捨ててみたいの。あたし、婚活サイトに登録するわ。まずは、恋人をつくるわ。
いい考えね、M子。
♥♥♥♥♥
メルちゃん、ついにあたし、旦那と子供を捨てるときが来たわ。この日を待っていたの。生まれたのよ、子供が。
M子、頑張って! 恋人の次は旦那と子供をいっぺんに捨てるのよ
メルちゃん、あたし、ついに離婚したわ。旦那を捨てたのよ。子供も養護施設に置いてきたわ。あたしの願いが叶ったのよ。ねえ、メルちゃん、ねえ、ねえ、メルちゃん、あたしのメルちゃん、どこいったの・・・
・・・・・・
♥♥♥♥♥
メルちゃん、今日ね、男の子から缶バッチもらったの。
M子うれしそうね。その子のこと好きなの?
好きになっちゃったかも。あの子もあたしのこと好きなのかなあ。
きっとそうよ。好きだからくれたのよ。
メルちゃん、今日ね、メルちゃんよりぽぽちゃんの方がかわいいって言う子たちがいて、クラスでメルちゃん派とぽぽちゃん派にわかれたの。あたしは絶対メルちゃん派だからね。
うれしいわ。M子ずっとあたしといっしょにいてね。
もちろんよ、メルちゃん、大好き。
メルも、M子大好き。
♥♥♥♥♥
メルちゃん、あたし、今日、あの缶バッチすててやったわ。
どうして? M子すごく大事にしてたじゃないの。
いいの、あんなやつ。メルちゃんだけがあたしのお友達よ。
メルも、M子だけがおともだち。ずっといっしょにいてね。
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桔梗は、かつてM子の夫であった男ーー桔梗の父親とともに、脳科学で有名なある医科大学付属の研究所を訪れていた。桔梗は養護施設に捨て置かれた赤ん坊である。20年の月日が経ち美しい娘に成長した。
20年前のあの日、養護施設の前に赤ん坊を置いたM子は興奮のあまりふらふらと車道に飛び出して、大型トラックにはねられた。
防犯カメラの映像から、捨て置かれた赤ん坊はM子が置いたことが判明し、父親が育てることになった。
「ーー脳の一部にAIを埋め込む? そうすれば、M子は目覚めるのですか?」
かつてM子の夫であった男は言った。
「M子さんは20年間繰り返し同じ夢を見続けていると思われます。脳波が全く同じ波形を延々と記録し続けているのです。私たちはついに人工脳の開発に成功しました。この人工脳をM子さんの脳の一部に埋め込めば、意識が回復するかもしれません。」
脳科学研究の第一人者である有名な医学博士が言った。
20年前、トラックにはねられ意識不明となったM子は大学病院に運ばれた。体はかすり傷程度であったが、頭を強く打っており、意識が戻らぬまま1年が過ぎた。
治療費はM子の貯金から支払われていたが、1年で底をついた。
そして、M子は19年前、死んだことになった。葬式は、元夫が出した。
人工脳の研究をしているこの研究所がM子を死んだことにし、脳研究のために引き取ったのだ。
母親が生きていたーー。桔梗はこの日初めて母の姿を見た。母は桔梗が1歳のとき、交通事故で死んだと聞かされていた。当然、自分が一度母に捨てられた存在だとは知らない。M子の異常な性癖も知らされていない。それゆえ、なぜ父が今まで母の存在を隠していたかが理解できなかった。
「わたしは、M子とは離婚していますし、19年前にM子を手放しています。なぜ、いまさら・・・」元夫は言った。
「もし、この手術を施してM子さんが意識を回復したら、おそらく混乱をきたします。20年の月日がたったことを理解できないかもしれません。AIが暴走するかもしれません。ですから、顔見知りであるあなたに立ち会っていただきたいのです」
「わかりました。そういうことなら」元夫は答えた。もういちど、M子と暮らしたい、夫と子供を捨てるという異常行動は現実ではないと思いたかった。
手術日、元夫と桔梗は、あるものを持って再び研究所を訪れた。
「本当に、こんなものが必要なの?」
「ああ、M子はこれを異常なぐらい大事にしていた。他の物はすぐ捨てたがるのに、なぜか、これだけは捨てられなかったみたいだ」
桔梗の手には母の形見のメルちゃんが握られていた。
ー完ー
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この物語をへのへのもへじさんに捧ぐ
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