これは宇宙のどこかの星のお話です。
ぼくは東京高検検事長。この春、検察のトップ、検事総長になる予定だった。
今の検事総長が辞任したあと、検察ナンバー2のぼくが検事総長に上がるはずだったのだ。
ところが、検事総長が、辞任はいやだ、定年まで検事総長をしたいと言ったのだ。
総理のいうことも聞かずにだ。
検事総長の定年は65歳。ぼくは東京高検検事長だから定年は63歳。
検事総長は約2年で退き、交代するという慣例があったが、今の検事総長は次のイベントまでは検事総長を続けたいといってきかなかった。
早く辞任してくれないと、ぼくは63歳になってしまい、定年を迎えることになる。検事総長になれなくなる。次の検事総長には総理と懇意にしているぼくが据えられるはずだった。
いや、でも。検事総長になれなくてもいい。こんな世の中、穏便に定年を迎えることができるのなら、定年退職しようじゃないか。
退職金ももらえるし。
退職するつもりだったんだよ・・・
それが、なぜか、伝染病のどさくさに紛れて、いつのまにか、異例の定年延長が決まっていた。ぼくは、東京高検検事長を続けることになった・・・今の検事総長が退く日まで・・・
しかし、国民をだますことはできなかった。
検察庁法改正案は、政権が検察を支配するための改正案だ、と大げさに騒いだ人がいた。ぼくを検事総長にするための異例の定年延長も、知れ渡ってしまった。
改正案が、政権に都合のいい検察官を幹部に残すための法案だといわれた。
それに便乗して有名人も騒ぎだした。普段、政治の話などまったく興味のない人まで、知ったかぶりをして、政権批判に走った。
伝染病の蔓延で自宅待機を余儀なくされていて、暇をぶっこいているやつらは、旬な話題に乗っかって、少しでも目立とうとした。
SNSでの政権批判が絶えなかった。
このままでは政権があぶない。
この事態をどう収拾つけるのか。
国民が食いつく、それでいて十分批判に値する、インパクトが大きいなにかでもって国民の目をそらし、政権を守ろうとした。
「不倫と賭博どっちにする?」
ぼくの辞任の理由だ。どちらかを選べということだった。
不倫は罪にはならないが、奥さんや子供にまで影響を及ぼすし、印象が悪い。
離婚なんてことになったら、慰謝料が恐ろしい。かなりの出費になる。ただでさえ、女房は、すきあらば離婚の理由をぼくに押し付けて、高額の慰謝料をぶんどることを企んでいるはずだ。
お相手は誰? みたいなことになったら彼女にも迷惑がかかる。今までバレずにきたのに。
一方、賭マージャン程度なら、いいわけもつくし、すぐに忘れ去られるだろう。少額にしておけば、無罪になる。総理も、絶対訓告処分にする、退職金は保証するといってくれた。
本当はお金なんか賭けちゃいない。少額のはした金なんか賭けてどうする。ただマージャンをやっただけ。情報交換会だ。娯楽のためだったらしないさ。メールや電話では言えない情報を交換する会だった。緊急事態宣言が出され、外出自粛のときにマージャン…これだけでも、不謹慎だと叩かれるだろうが、辞任の理由にするには、これではちょっと弱い。
だから、国民にインパクトを与えるためにお金を賭けたことにしようという話になった。いっしょにマージャンをした新聞社の人たちとも口裏をあわせた。
司法取引みたいなものだ。
ほくは言った。
「賭博にします」
こうして政権批判から個人への批判にすりかえられた。
バカな国民は、政権がやろうとしたことをすっかり忘れ、今度はぼく個人を批判しだした。まんまと騙されたのだ。
外出自粛で国民が我慢しているときに、検事長という立場の人間が…と誹謗中傷の嵐だ。事実じゃないから、痛くも痒くもない。むしろ滑稽だった。
そして、訓告処分が決まったあとは、訓告処分なんてありえない懲戒処にしろと騒ぎたてた。
まったくバカな国民だよ…。
世間は非難相手を探してる。ぼくはいけにえになった。
次の非難ターゲットがあらわれるまでのがまんだ。
この物語はフィクションです。
最近、やっと読み終わった教場2。おもしろいです。
警察学校を舞台とした小説です。
今年の初めに木村拓哉主演でテレビドラマになっていましたね。ドラマは見逃してしまいました。
短編で構成されていますので、読みやすいです。だから、読むのに1年以上かかってしまいました。どこまでよんだかわからず最初から読んだのですが、半分以上読んでいたみたいです。伏線がちりばめられていて、ああ~そうだったのか!ということがよくあります。そして、精神的な恐怖。ミステリー小説と言っていいのか推理小説と言っていいのか。おもしろいです。
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