眠れない夜、深夜中の深夜に、布団の中で、頭の中で、作った小説がありました。
何カ月も前の話です。
朝起きて、何かを忘れたような気はしていました。
それが、帰省中、お見舞いで病院に行き、そこのトイレに入ったとき、突如思い出したのです。私は二度と忘れないように、車の中で魁太郎さんが教えてくれたグーグルキープに書き込みました。
そのお話がもとになって、ひとつのお話が出来上がりました。
主人公は、ミスターM氏。
へのへのもへじ氏が猛暑の中で書かれた創作物語の登場人物がM氏です。
私が、その後のM氏が心配とブコメに書いたら、 へのへのもへじ氏が続きを書いては?とおっしゃったので書きました。勝手に書いたのではありません。
ミスターM氏の婚活【前編】
ミスターM氏にとって、実に8年ぶりの日本であった。
彼は今、東京本社の門をくぐった。今日から、本社勤めである。
ある事件があって、ミスターM氏は○○共和国という発展途上国に左遷され、日本をはなれていた。
その国で8年間、オフィスビル建築の現場監督をやってきた。
そこで働く大工ロボットの管理がミスターM氏の仕事であった。
世の中なんでも機械化がすすんで、考えることさえAIが行う。
しかし、必ず人間の手が必要な仕事もある。機械化できない仕事は人間型ロボットが担っていた。
8年前、ミスターM氏はアメリカ生まれのiPhoneKoという家事全般を行う女性型ロボットを購入し、使用していた。彼は独身であったから、その女性型ロボットを「アイコ」と呼び、あるときは母のように、あるときは妻のように、いろいろな形で使いこなしていた。
そのことが会社の社長や上司に知れ渡り、○○共和国のオフィスビル建築の現場監督に抜擢された、と表向きはなっている。
ミスターM氏の勤める会社は、日本ではマンション建設と販売が主な事業だったが、オフォスビル建設での海外進出を目論んでいた。
その海外進出プロジェクト会議をテレワークでおこなっているときに事件はおきた。
本当は誰も行きたくない発展途上国に、誰が行くかという問題が渦巻いている中のあの事件だった。
ミスターM氏はまさか自分が行くことになるとは思っていなかったが、あんなことがあって日本にいられるわけもなく、快く転勤を受け入れた。あんなこととは、アイコの恥ずかしい映像がテレワーク中にカメラに映ってしまった事件である。
○○共和国にはアイコも連れて行った。
アイコは美しく、歳もとらないし、文句も言わない、料理も上手く、なんでも叶えてくれるので、ミスターM氏にとって理想のパートナーだったが、赴任中に故障してしまった。そのとき、いかに自分がアイコに依存していたかを知った。アイコを修理するには高額な修理費が必要だった。アイコを購入した販売店からは、最新のiPhoneKa、日本名「アイカ」を勧められた。
しかし、アイコには独自のコマンドで動くようにいろいろなことを覚えさせていて、さらに搭載のAIによってミスターM氏の性癖を完璧に学習し、その日の顔色や疲れ具合によって癒し方を変えて、ミスターM氏を満足させることができたので、代わりの家事全般ロボットを購入することは全く考えられなかった。
というか、ミスターM氏はアイコを愛してしまっていたのだ。
ミスターM氏は、アイコを失った悲しみを癒すため、現地の女性とお付き合いをしてみようとしたが、あろうことか、ミスターM氏は人間の女性の愛し方を忘れてしまっていた。いつもやってもらっていたため、男としての機能もだめになっていた。
ミスターM氏は日本に帰ったら婚活して生身の人間の妻を探そうと決心した。
アイコの修理も考えたが、ミニマリストを極めたこともあるミスターM氏は、アイコに依存していた自分を反省し、アイコを手放すことを決めた。ミニマリストたる者は、物に頼ってはいけない、そう思った。
そして、帰国まで禁欲生活に挑戦、見事連続60日を達成した。禁欲60日を達成したミスターM氏は、一皮むけたように生き生きとし、仕事の面でもさらに手腕を発揮して、大成功をおさめた。
現地の大工ロボットは日本製だった。
大工ロボットたちはいつでも従順であった。
文句ひとつ言わない。そして汗水ひとつたらさないで黙々と働く。
ロボット同士のコミュニケーションも円滑で連携作業も早い。
ロボットだからどんなに暑い日でも熱中症の心配はない。
高所作業もお手のもの。重い鉄骨も一人で持ち上げることができる。
クレーンの操縦もできる。
8時間働けば、一晩の充電。毎日がそれの繰り返し。
ただのロボットながら、彼らに搭載されているAIはミスターM氏を慕うべき人物として認識するようになった。それだけ、ミスターM氏はロボットたちを人間同様に大切に扱っていたのである。
海外進出プロジェクトは大成功。ミスターM氏は凱旋帰国である。
ミスターM氏は、8年の海外生活でアラフォーと呼ばれる年齢になっていたから、なるべく早く、結婚相手を探そうと思っていた。
本社の受付にはとても美しい受付嬢がいたが、もう彼氏がいそうな雰囲気だ。彼氏がいるかなんて聞けばセクハラだと言われかねない世の中だったから、簡単に女性に話しかけることはできない。
ミスターM氏は出会いを求め、婚活サイトに登録した。しかし、心の底から愛せる女性に出会ったと思ったら、振られる、の繰り返しだった。どうしたら、愛する人と結ばれるのだろう、日々悩んだ。ミスターM氏は人間の女性と愛し合ったことがなかったから、童貞みたいなものだった。愛する人と枕をともにするとき、失敗がないか心配であった。それでもミスターM氏は愛する人と結ばれることにこだわり、真実の愛を追い求め、愛のない行為はけっしてすまいと思っていた。
日本に帰ってきて、半年、ミスターM氏は衝撃的な出会いをする。
勤めている本社ビルのトイレ清掃にきている女性にひとめぼれしたのだ。
【後編】につづく
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創作物語・ミスターM氏の婚活【後編】 - ほおずきれいこの骨髄ブログ・2nd season
ミスターM氏が左遷されることになったきっかけの話はこちらから
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